喘息

2010年9月10日 (金)

喘息の治療(ホクナリンテープ) 多芸は無芸?

 今回はホクナリンテープです。

 ホクナリンテープとは、医療機関で「子供の咳がひどいです」というとたいていのところでくれる四角いテープです。ホクナリン(一般名ツロブテロール)というβ-刺激剤系の気管支拡張薬を、貼布剤にしたものです。寝る前に体に張れば、体に穏やかに吸収され効果が持続するという触れ込みです。

 発売後、爆発的に処方されました。咳といえばホクナリンという感じですね。保護者からも求められることもありました。本来は一日たったら張り替えるのにそのままにしていて、勲章のようになっているお子さんもいました。

 しかしながらホクナリンの薬理作用を考えれば、すべての咳にホクナリンが有効であるわけがありません。本来は、気管支喘息・咳喘息に使うべきものでしょう。「急性気管支炎」に適応という効能書きがありますが、薬理作用上効くか疑問です。また、長引く咳で鑑別が必要な、副鼻腔炎による後鼻漏、百日咳、胃食道逆流には、効果はありません。

 こちらも見てください。認可されたときの論文内容を読んで、驚きました。
「咳止めのテープ」の問題点 http://www009.upp.so-net.ne.jp/tatsuo/tape.htm

 ただ貼るだけで便利なので、効果がわからないままに使われすぎてしまっている、「多芸は無芸」というイメージがホクナリンテープにはあります。ただ、適応を限って使えばいい薬のはずです。夜間から早朝の発作が激しい喘息には効果があると思います(mornig dip)。

 ホクナリンテープには何種類かのジェネリック(いわゆるゾロ)が存在します。同じ性能で安ければジェネリックのほうがいいのではという意見もありますが、一般的に外用剤のジェネリックには注意が必要です。ホクナリンテープのジェネリックでは、

  • 粘着力に問題がある(はがれやすい)
  • 薬剤が長続きしない(すぐになくなる)

 という問題があります。ホクナリン自体の特許はもう切れましたが、ホクナリンを徐放する(ゆっくりと作用させる)特許は、結晶レジボアシステムといって、まだホクナリンテープの製造会社持っています。そのため、ジェネリックの会社はそのシステムを利用することができません。

 ジェネリックによっては、貼ってから3時間ですべて吸収されてしまうものもあります。つまり、貼ってから3時間たてばただのテープになります。これではmornig dipに対応できるわけがありません。

 ちなみに、海外ではホクナリンテープというものがありません。気管支拡張の貼布剤自体ないのです。ですので外国に入ってホクナリンテープの話をしても、外国のお医者さんは混乱すると思います。

 次回は、悲劇の薬ベロテックの予定です。

2010年9月 7日 (火)

喘息の治療法。気管支拡張薬(β刺激薬その1)

 まずは、喘息の治療法で気管支拡張薬からはじめてみます。

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2010年9月 6日 (月)

喘息の治療法。まず禁煙を!二次喫煙・三次喫煙のご理解を!

そうそう、喘息の治療法で何よりも大切なのが、

まず禁煙をしてください。

 これは、薬を使う前の問題です。タバコの煙は気道に刺激を及ぼします。喘息を起こすのに十分な刺激です。

  1. 吸う部屋を別にしているから大丈夫
  2. 換気扇の下で吸っているから大丈夫
  3. 子どものいないときに部屋で吸っているから大丈夫
  4. (喘息なのに)この子は喘息じゃないから大丈夫

 といった話を耳にしますが(4番は意味不明・・・)、結局のところだめです。最近は二次喫煙(受動喫煙)のみならず三次喫煙(副流煙などが壁や絨毯、調度品などにしみこむ)が問題になっています。

 あと、小学生でも高学年なら隠れタバコということもあります。こういったケースのほとんどが、自宅で親が喫煙しているのです。自ら禁煙しましょう。

喘息の治療法。長期管理の必要性

 いまだに暑くて夏真っ盛りですが、そろそろ台風シーズンです。喘息が気になってくるところです。

 喘息の治療方法はここ数年で大きく変わりました。喘息死もまだ十分とは言いがたいですが、かなり下がってきています。

 今回は、治療法について書いていこうと思います。

 喘息は、気道の慢性炎症および気道過敏性があるとされています。気道過敏性があるために、わずかに刺激で気道が収縮するのです。気道収縮の要素は、気道平滑筋収縮、気道粘膜浮腫、気道分泌増加ですが、平滑筋の収縮が重要です。

 一昔前の喘息治療は、気管支拡張がメインでした。発作時の収縮した平滑筋を広げるのです。しかし、気道の慢性炎症・気道過敏性はそのままなので、また気道平滑筋収縮が起こってしまうのです。

 そこで、炎症をとる治療はどうでしょうか?それで吸入ステロイドというお薬が世に出てきました。欧米では以前から使われていたお薬ですが、日本で広まったのはここ5・6年でしょうか?薬が認可されるのも、かなり遅かったです。

 喘息の治療法は、大きく分けて抗炎症薬および気管支拡張薬となります。もう一つの分け方は、発作のあった場合にのみ使用するリリーバー(リリーフピッチャーと語源は同じ)と発作が起きないようにするコントローラーというのがあります。直観的に

 コントローラー=抗炎症薬
 リリーバー=気管支拡張薬

 と思われそうですが、必ずしもそうではありません。ただいえることは、コントローラーを上手に使うことによって喘息死が減ったということです。発作のあるときだけ薬を使っても、これはテスト前の一夜漬けと同じことなのです。

2010年4月11日 (日)

喘息にLABAは安全か?NEJMの論文から

最初に:基本的に下手訳なので、訳し方の突っ込みは勘弁してください。

The FDA and Safe Use of Long-Acting Beta-Agonists in the Treatment of Asthma

N ENGL J MED 362;13 1169-71
http://content.nejm.org/cgi/content/full/NEJMp1002074

(訳:抜粋)

 何十年もの間、FDAと医学界は長期作働方β刺激剤(LABAs)のどうやって安全に使用するかを議論してきた。
 アルブテロール(SABA)に比べサルメテロールで治療した患者での喘息関連死のリスクが増大していた。1994年にサルメテロールを認可してから短期間で、FDAはサルメテロールを使用した患者での深刻な喘息悪化や死亡の報告を受け取り始めた。ホルモテロールでのより小さな研究で深刻な喘息悪化(一部は挿管を必要とした)を示した。

 FDAはLABAsの利益は、薬が適切に使用されたときにリスクを上回り続け、この薬は喘息の治療薬として残るべきだと結論している。しかし、深刻なリスクのためICSのような喘息コントローラーで十分に管理できない喘息患者のために取っておくことをFDAは推奨する。さらに、大規模で無作為化された対照臨床試験(contorolled trial)でICSと同時に投与されたLABAsの安全性が評価できるまで、FDAは長期のLABAs使用を限定すべきだと信じている。FDAA(FDA改善法)の影響で、2010年2月18日FDAはアメリカで製造されているすべてのLABAsの専門的な効能書きの必要性を推奨した。

  1. すべての年齢でICSのような喘息コントローラーの同時使用なしのLABAの使用禁忌。
  2. 可能であれば、一度喘息のコントロールがICSなどで達成し維持できればLABAの中止
  3. 少量や中程度量のICSで適切にコントロールできている患者での、LABA使用を薦めない。
  4. ICSに加えてLABAを必要とする小児や思春期の患者では、併用療法のコンプライアンスを確実にするために、LABAとICSの量が固定された併用製品を推奨。

 これらにはいくつの理由がある。ひとつは、すでにLABAは喘息コントローラーなしでは使用しないというのは常識であるにもかかわらず、新しい禁忌ではLABA単独療法の重篤な危険性を強調している。二つ目は、LABAsのリスクは薬が思慮深く使用された場合リスクを最小限にでき、長期のLABAを必要としない患者はそのリスクにさらすべきではないとFDAは信じている。三つ目はLABAsの長期使用の患者は、喘息コントローラー薬でコントロールできない患者に限定すべきである。
 最後に、LABAとICSを別々に投与された場合、小児と思春期ではコンプライアンスを確保するのが難しいため、FDAはこれらの年齢でLABAとICSを含んだ併用製品を推奨している。

 このFDAの推奨は処方する医師たちに驚愕を与えた。というのは、喘息治療のガイドラインと現在の慣例では、LABAとステロイドの併用を必要とする患者ではICSをステップダウンすることに、焦点が置かれているからである。
 これらのガイドラインでは、LABAの利益は気流の改善やSABAs使用の減少などβ-刺激剤の効果でおおむね示されていた。LABA(単独またはICSの併用)で、生存率があがることや深刻な喘息悪化の改善に影響したという研究はない。

 LABAに関するまだ答えられてない重要な質問は、ICSの併用使用で喘息関連死亡率が和らぐかということである。いくつかの解析ではLABA単独使用に比べて喘息関連した深刻な有害事象が減少したことを示しているが、ほかの解析ではそうではない。

 深刻な喘息悪化と喘息関連死はLABAsのみということではない。SABAsは喘息の悪化を起こし喘息関連死の原因となるということは、50年以上知られている。原因は明らかではないが、SABAsは気管支収縮刺激に対する感受性を増加し、すなわち喘息悪化の症状をマスクすると仮定されている。リスクを最小限にするため、現在の喘息治療のガイドラインではアルブテロールやほかのSABAsは短期間の症状緩和のみに使用し、SABAsの使用を最小限にするため喘息コントローラー薬を使用することを推奨している。気管支拡張作用の時間を除いて、LABAsとSABAsの基本的薬理学的活性と臨床的活動は同じである。そのためFDAはLABAsの長期使用を薦めることに矛盾があると信じている(LABAsが喘息関連死のリスクを上げるのならば、なおさらである)。

LABAsの安全な使用のための新しい推奨を処方医師と患者に知ってもらうために、FDAはいくつかの行動をとろうとしている。

 ISC/LABAsの併用とICS単独治療と比べてのリスクを評価する臨床試験を実施することを、FDAはLABAsの製造者に要求するだろう。


注:
 喘息の治療のひとつに、β刺激薬があります。気管支を広げる作用があり、作用時間の違いから短期型(SABA)と長期型(LABA)に分けられます。以前からLABAの単独使用は危険といわれていましたが、吸入ステロイド(ICS)を併用すればいいというわけでもないようです。ただ、体感的にはLABAとICSの併用はかなり効果があります。患者さんの評価も高いです。

 記事で出ていたアルブテロールは別名サルブタモール(商品名はベネトリン)、サルメテロールは商品名セレベントです。ホルモテロールは経口では商品名アトックで、吸入では吸入ステロイド(ブデソニド)との合剤として商品名シンビコートと呼ばれています。日本でよく使われているSABAの一つ、プロカテロール(メプチン)はFDAの認可を受けていません。

 ICSとLABAの合剤でLABAの量を可変できる(fixed-doseではない)シンビコートはFDAの小児適応を受けていません。
http://www.gci-klug.jp/fxnews/detail.php?id=34698

 日本で使用できる’ fixed-dose combination product containing a LABA and an inhaled corticosteroid’ は、今のところアドエアのみです。
http://adoair.jp/

 しかし、現時点でシンビコートが小児で危険だとか、アドエアであれば絶対安全ということではありません。LABAは臨床的にはかなり有効ですが、注意して使うべきことには変わりありません。

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