ポリオワクチン(OPV)とシナジスについて
そろそろシナジスのシーズンです。
シナジスはRSウイルスの抗体を人工的に作ったものです。普通の人がかかれば「かぜ」で終わってしまうRSウイルスですが、早く生まれたり(早期産)、肺や心臓に疾患のある赤ちゃんがかかると、重症化しやすいです。時として命に関わります。現在の適応は、
下記の新生児,乳児及び幼児におけるRSウイルス(Respiratory Syncytial Virus)感染による重篤な下気道疾患の発症抑制
RSウイルス感染流行初期において
- 在胎期間28週以下の早産で,12ヵ月齢以下の新生児及び乳児
- 在胎期間29週~35週の早産で,6ヵ月齢以下の新生児及び乳児
- 過去6ヵ月以内に気管支肺異形成症(BPD)の治療を受けた 24ヵ月齢以下の新生児,乳児及び幼児
- 24ヵ月齢以下の血行動態に異常のある先天性心疾患(CHD)の新生児,乳児及び幼児
です。
この注射はいろいろな意味で通常のワクチンとは異なります。通常のワクチンは、病原体(に似たもの)を体内に入れることで、からだの免疫機能に働きかけ、病原体に対する抗体を作ります(能動免疫)。シナジスはRSウイルスそのものに対する抗体をそのものです(受動免疫)。そのため、ワクチンとはいろいろと違います。
- 効果が短いため、シーズン中毎月注射する必要がある
- 注射は、日本で行われている皮下注射ではなく、筋肉注射(筋注)である(そもそもワクチンも筋肉注射が望ましいのですが)。
- 免疫機能が違うため、他のワクチンとの間隔をあける必要は無い(これも、原則として生-生ワクチン以外は間隔をあける必要は無いのですが)。
時として、シナジスを打つシーズンと経口ポリオワクチン(OPV)のシーズンが重なることがあります。そのときに、問題になることがあります
- ポリオワクチン(OPV)は生ワクチンだから、シナジスを接種するまでに一ヶ月間隔をあけなくてはいけないのか?逆に、シナジスを接種してからどのくらい間隔をあけて接種すればいいのか?
- ポリオワクチン(OPV)をしたあと筋肉注射をすると、麻痺になりやすいと聞いたけれど、本当なの?
まず、1.についてですが、医療関係者でも混乱することがあるようです。しかし、前述のように、接種間隔をあける必要はありません。同日に済ませることも原理的には可能です。
それから、2.ですが、以前書いたことを再掲します。
https://setagaya-syouni.cocolog-nifty.com/blog/2010/09/vappopv-ceff.html
たまたまルーマニアの文献(生ポリオワクチンをした後筋肉注射を頻回にすると麻痺になる)をあたっていて、yamaさんと同じサイトを見ていました。
http://www.pariet.jp/helpful/vol55/no571/sp21.html
原典もあたってみました。
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJM199502233320804
日本でポリオ接種をした後、筋注をする期会というのはあまりないのですが、あえていうならシナジスの時でしょう。しかし、ここの論文を読んでみる と、麻痺を起こしたケースは10回以上が多く、平均は16.8回ということです。日本でここまで筋注をするケースはないでしょう。日本では、ポリオワクチ ンの効能書きに書かれている、
- 本剤の接種後およそ1か月間は、頻回の筋肉注射(抗生物質等)を行うと、ワクチン関連麻痺例の出現頻度が高くなるという報告があるので13)、筋肉注射は控えるのが望ましい。この報告によると、原因は筋肉注射を行う薬剤にあるのではなく、筋肉注射という強い刺激と、ワクチンウイルスの中枢神経への進入の関連を推測している。
http://www.info.pmda.go.jp/go/pack/631340JA1028_1_06/
は、ほぼ無視してかまわないでしょう。しかし、ポリオワクチンならばIPVの方がベターです。IPVにした方がいいかもしれませんね(シナジスとの同時接種はできるかな?)。
シナジスとの同時接種は出来るかな?と反語調に書きましたが、実際に同時接種できます。
OPVとシナジスについての悩みも、IPVが定期接種になれば解消されるのですが・・・
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