« 男の子を持つお母さんの悩み・包茎と「むきむき体操」について | トップページ | 2010.11.9 とくダネ! 「”ワクチン後進国” 日本の現状」 »

2010年11月15日 (月)

三種混合(DPT)の初期免疫は2回でいいですよと言われたら(茶飲み話つき)

 こんな方が見えました。生後4ヶ月、5ヶ月で三種混合(DPT)を受けた後、川崎病になった赤ちゃんです。病院に入院しガンマグロブリン(血液製剤)を使用して、無事退院しました。10ヶ月健診で。三種混合ワクチンが二回のままになっていたのです。

 とある医師から、三種混合ワクチンの初期免疫間隔は三週から八週の間に打つ必要がありそれを超えたら定期接種と認められない、といわれたということです。また、初期免疫として2回打てば十分だから、一年後追加を打てばいいとも言われたということです。

 ここはまず、三種混合ワクチンについて整理しましょう。

 三種混合ワクチンは、DPTともいってそれぞれジフテリア・百日咳・破傷風に関する成分が入ったワクチンです。不活化ワクチンといって、免疫を維持するためには複数回接種する必要があります。具体的には、

  • 初回免疫:生後3ヶ月から(海外では生後2ヶ月からなのですが・・・)。3回を3週から8週間空けて接種。
  • 追加免疫:初回免疫後一年後くらい(正確には6ヶ月以上、標準として12ヶ月から18ヶ月までの間)に一回接種。

 です。

 それで、突っ込みどころですが・・・

1.川崎病になった後、どのくらいたってからワクチンをしてもいいの?
 あまり一定した見解はないと思いますが、ガンマグロブリンを使用してなければ病勢が落ち着けばいいのではと思います。ガンマグロブリンを使用しても、BCG・ポリオ以外の生ワクチンでなければ、問題ないでしょう。詳しくは下も見てください。ただ、接種開始時期は、川崎病の主治医と相談したほうがいいでしょう。

2.ガンマグロブリンした後に三種混合ワクチンをしてもいいの?
 ガンマグロブリンとは、主として献血で集めた血液から、免疫物質を取り出したものです。いろいろな作用がありますが、川崎病に有効です。ガンマグロブリンを注射したあとは、体の中の免疫反応が変わることがありますが、生ワクチン(BCG、ポリオはのぞく)でなければ、ワクチンの効果が落ちることもありません。また、ガンマグロブリンと各種ワクチンの相互作用で、副反応が強くなるということもありません。不活化ワクチンである、三種混合ワクチンは接種できます。

3.三種混合の初期免疫は二回で十分なの?
 むかし三種混合は二回でよいという意見がありました。そういった通達も厚生労働省から出されていたはずです(確認できませんでした)。しかし、以前もお話したように三種混合をフルセット(4回)で接種しても、数年たって百日咳にかかることは十分ありえます。特別な理由がない限り、三種混合の接種回数を減らすことはしないほうがいいです。

4.三種混合ワクチンの接種間隔である「3週から8週」を超えて接種してもいいの?
 まず、医学上は問題ありません。多くのワクチンでは接種間隔が多少ずれても、最初から打ち直す必要はありません(十年もあいていたらどうなんだろう・・・)。

 問題は、行政です。

 保護者が忘れたり、病気などで三種混合ワクチン初期免疫の間隔が遅れてしまうことはしばしばあることです。一昔前は大目に見られていました。それがいつの間にか、期間を超えたら定期接種とみなさないという通達が出されたのです(探しのですが見つかりませんでした)。

http://www.koizumi-shigeta.or.jp/yobou1-06.html

 厚生労働省の方針で平成18年10月から、予防接種法の運用が厳しくなり、ジフテリア・破傷風・百日咳三種混合ワクチン(DTPワクチン)などの複数回接種する予防接種は、定められた接種間隔を過ぎてしまった場合、定期接種とは認められず、任意接種として扱うことになりました。

 この通達は、いろいろと影響が出ました。まず、任意接種では自治体によっては有料になります。また、ワクチンで何かしらの不具合が生じた場合、任意接種での補償になります。これは、正直申し上げて定期接種の補償よりもかなり見劣りがするものです。現場はかなり混乱しました。

 そして、平成19年6月11日に「健感発第0611002号」という通達が出ました。青森県からの質問に答えたという形になっています。

http://www.mhlw.go.jp/shingi/2007/06/dl/s0614-9g.pdf

 平たく言えば、病気などで接種間隔がずれた場合は定期接種と見て差し支えないということです。厚生労働省は認めないかもしれませんが、平成18年10月通達の事実上撤回と見ていいでしょう。

5.ワクチンで川崎病になるって本当?
 川崎病は未だに原因不明です。いろいろといわれていますが、確実なものはありません。ワクチンを打ってすぐに川崎病になったということであれば、家族としてはすっきりしないところもあると思います。しかし、その後のワクチンが進まないために子どもが不利益になるのは避けなければなりません。

 それで、赤ちゃんの件ですが、きちんと説明した上で、三種混合の三回目を無事接種することができました。


 ここからは、茶飲み話

 ワクチン関係のたいていの通達は、「厚生労働省健康局結核感染症課」から出されています。役人の人事はだいたい2-3年でローテーションなのですが「何もしないこと」が求められるため、感染症の専門家が入ることはまずありません。ですので、知識のない役人が問い合わせに応じて頓珍漢な通達を出すことがあります。

 なかには日本のワクチン行政に心を痛めている人がいて、何とかしようと思っている人もいます。しかし、一度出した通達を変えるわけには行きません。そこで考えたのが、平成19年6月11日の通達なのではと思います。

 同じ日に出された「健感発第0611004号」では同じく青森県の質問に答える形で、一歳未満の麻疹ワクチン接種(任意接種)後でも1歳からのMRワクチンは定期接種とみなす、という通達が出されています。以前は、一歳前に必要があって麻疹ワクチンを接種したら、1歳からのMRワクチンは定期接種とみなされない可能性がありました。

 誰かが、三種混合の定められた期間を過ぎても大丈夫なのかと厚生労働省に問い合わせをして当時の担当者が、「定期接種とみなさない」と頓珍漢な通達を出してしまった。これらを憂慮した青森県と厚生労働省の新しい担当者が、MRワクチンの件も含めて一芝居打ったというのは穿ちすぎでしょうか?

もっと茶飲み話を・・・

 予防接種に関しては、医学上・法律上明らかに齟齬がある場合以外(ごめんなさい初版は抜けていました)は、かえって役所に問い合わせいないほうがいいのではと思うことがあります。患者の利益を最優先に考えて。何気ない問い合わせで作られた一枚の紙切れ(通達)が、その後ワクチンを打つべき患者さんの不利益につながってはたまったものではありません。

 新型インフルエンザ騒動のときに行政に関与した高山義浩先生の記事が優秀です。あの当時は、箸の上げ下ろしの仕方程度のことまで行政が決めろといった人がいたものです。

http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA02891_02 (「もたれ合い社会」からの脱皮を 新型インフルエンザの経験を通して 高山義浩)

もっともっと茶飲み話を(でも、これ大切)。

 本当は、何も知らない厚生労働省の役人(医系技官も)が予防接種行政を担当するのではなくて、もっと独立した機関が必要なのでしょうね。アメリカに倣って、日本版ACIPを提唱する声はだんだんと大きくなっています。

« 男の子を持つお母さんの悩み・包茎と「むきむき体操」について | トップページ | 2010.11.9 とくダネ! 「”ワクチン後進国” 日本の現状」 »

ワクチン」カテゴリの記事

医療問題」カテゴリの記事

コメント

 厚労省のお役人様たちは、結果に対して責任を取らないでいいのに、それなりに良い待遇でいらっしゃるエリート様たちでいらっしゃるので、庶民と顔を合わせて仕事をしている臨床医ふぜいの言葉など、ガン無視。できもせんほどの書類仕事を、救急病院で仕事をしている医師に負荷するなど朝飯前。新型インフルエンザの時も全く役に立たないことを山ほど病院にほり投げやがりました。

宮原先生

お褒めいただき恐縮です。

> 予防接種に関しては、医学上・法律上明らかに齟齬がある場合以外
> は、かえって役所に問い合わせいないほうがいいのではと思うこと
> があります。

まったくそのとおりです。とくにテクニカルなことは聞いても無駄です。そういう人材の配置になっていません。期待してがっかりするより、最初から期待しない方がいいのです。もちろん、人材が無尽蔵なら、そういう専門家を配置すればいいのかもしれませんが、私自身の経験でもありますが、勤務医時代と比して給与は半減で、国会会期中は家に帰れない日が何日も続きます。責任は重く、綱渡りのような日々です(そういう意味で臨床医の忙しさに極めて冷淡な空気が厚労省にあるのは問題だと思いましたが・・・)。給与体系の新設と結果への免責でも認めない限り、結核感染症課に専門家を配置するのは無理です。

> 何も知らない厚生労働省の役人(医系技官も)が予防接種行政を担
> 当するのではなくて、もっと独立した機関が必要なのでしょうね。
> アメリカに倣って、日本版ACIPを提唱する声はだんだんと大きくなっ
> ています。

ここはちょっと私と考え方が違います。政府における予防接種行政というのは、臨床現場とは別のところでの力学が大きく作用しています。臨床現場を知っている必要はあまりないと思います。

実のところ、これまでワクチン政策に大きな影響を与えてきたのは、どちらかというと「ワクチン慎重派」、つまり「ワクチンの効果は否定しないが、国が推奨することについては慎重であるべき」と考える方々だと思います。国会議員にもこの考え方が多いように思います。ですから、この慎重派との調整が業務の主流となるのは当然です。

そうして、慎重派の声に従って、国が推奨するワクチンについては、「集団免疫が期待できると明らかであり、それ以外に同様の効果が得られる手段がない」と考えられる場合に「国会において判断する」こととなっています。具体的には、予防接種法において、国がワクチン接種を推奨する疾病が記載され、疾病を追加するには法改正が必要になったということです。

いま、新型インフルエンザ対策をきっかけにして、予防接種法を抜本的に改正する作業がはじまっています。停滞していたワクチン行政を改め、世界最高水準であり、日本ならではの独自性のある制度ができればと個人的には思っています。

海外(とくにWHO?)ではワクチン企業によるエビデンス作りやロビイングが「先進性」に影響を及ぼしていますから、そこをどう読み解き、日本のワクチン行政に適切に落としこんでゆくかが重要ですね。

こうした議論を個別のワクチンについて是々非々で進めてゆくためにも、ワクチン接種を推奨する疾病については法律から削除し、決定の場を国会ではなく、宮原先生もお考えのように日本版ACIPのようなオープンかつ専門性の高い組織に引き継いでゆくことが必要なのかもしれません。

ただ、このとき「ワクチン慎重派」の方々と向かい合うことは避けられませんし、避けるべきでもありません。彼らはこのように言われます。

「集団免疫を期待して特定のワクチンを国が推奨することで被害者は必ずでます。集団のために個人を犠牲にするような決定を国民に選ばれたわけではない委員会にゆだねるべきではありません」

「ワクチンの是非は専門家の判断に任せるべきだ」という過激な意見が、一部の医師たちにはあるようです。でも、いかに専門家が科学的論証をもとに、あるいは費用対効果を示して推奨できるワクチンを割り出しても、国会を納得させることができないのであれば、それは国民が納得していないのと同義ですから、話はふりだしに戻ると思います。

ほとんどのワクチン慎重派の人たちは、ワクチンの有効性や経済性に疑念をもってんじゃないです。集団のために個人が犠牲になる施策を称揚することについて、私たちの国家には大きな前科があるので、十分に注意深くあるべきだと考えているのです。そういう「個人の犠牲を軽んじるような」メンタリティは、日本人のあいだでは容易に拡大解釈され、次の施策へと伝播していくような気がして不安なのです。

国会での議論が前提となっている現行の予防接種法には、1)手続き的に臨機応変に感染症施策に対応できない、2)意見が割れてしまって制度が停滞してしまう、という2つの批判があるようです。

私は法律の専門家ではありませんが、前者1)の理由であれば、国会が専門家委員会を信頼してワクチン制度について付託することが可能なんだと理解しています。しかし、後者2)の理由もあるならば、新しい制度を急ぐべきではないと思っています。まず、国会において意見を整理し、対立する両者の共通項をさぐり、共通項の範囲で専門家委員会に付託するべきです。これが民主主義のあるべき姿ではないでしょうか?

なお、そういう間にも髄膜炎の後遺症に苦しむ子供たちが発生していて、予防できるかもしれない悪性腫瘍により若くして命を落とす人がいます。だからこそ、ワクチン接種のチャンスをどんどん広げるような施策は絶対に必要だと思っています。

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック

« 男の子を持つお母さんの悩み・包茎と「むきむき体操」について | トップページ | 2010.11.9 とくダネ! 「”ワクチン後進国” 日本の現状」 »

2020年2月
            1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
無料ブログはココログ

最近のトラックバック