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2010年10月 8日 (金)

子どもの貧血・鉄補給についてもっと議論を!!

 最近赤ちゃんの貧血が多いような気がします。

 もちろんデータを取ったわけではありませんが、Hb(ヘモグロビン、出産のときにお母さんが検査した項目です)が、11を切るお子さんは結構います。離乳食(最近は補完食ともいう?)の開始時期が遅れ、1歳でも母乳のみという人もいます。鉄分が不足します。

 どうして貧血がいけないんだという人もいると思います。日本だとあまり議論されていない気がしますが、乳幼児期の鉄欠乏性貧血は深刻です。

http://intmed.exblog.jp/11383573/

   

三歳未満の子供における鉄欠乏症・鉄欠乏性貧血は発達障害上重要

 
   

    三歳未満の子供における鉄欠乏症・鉄欠乏性貧血

貧血を伴わない鉄欠乏状態でも、神経発達障害に影響をあたえる。故に、小児科医・医療従事者は、鉄欠乏・鉄欠乏性貧血を根絶するよう努力すべきである。

 ということです。元となる論文は、
http://ow.ly/2Qwxq

Clinical Report—Diagnosis and Prevention of Iron Deficiency and Iron-Deficiency Anemia in Infants and Young Children (0–3 Years of Age)

です。

 さて、食事でも鉄分が十分補給されない場合はどうすればいいのでしょう?WHOにある、"Guidelines for the use of iron supplements to prevent and treat iron deficiency anemia"から参照してみましょう。

http://ow.ly/2QwL6

Where iron-fortified complementary foods are not widely and regularly consumed by young children, infants should routinely receive iron supplements in the first year of life (Table 5).

Ida

 ここで注意すべきは、これは貧血の予防であり治療ではないということです。日本では明らかな貧血がなければ鉄分補給の対象になっていないことが多いです。もちろん十分な鉄分補給が食事(事情によってはフォローアップミルク)によってなされていれば問題ないのですが、残念ながらそうではない事例もあります。小児の鉄欠乏性貧血・鉄欠乏状態につて、日本ではもっと議論の必要があるでしょう。

 貧血は母乳育児をしている方に多いです。これは、日本の粉ミルクには鉄剤が添加されているからです(特にフォローアップミルク)。でも、原因はそれだけではないような気がします。

 「改訂版 だれでもできる母乳育児」からの引用です。

・・・母乳育ちの赤ちゃんには鉄剤の補給は明らかに不要で、かえって問題が生じることさえあるのです。
 鉄剤を与えられると、赤ちゃんは鉄利用の微妙なバランスを崩してしまうおこれがあります。母乳中には、ラクトフェリンとトランスフェリンという二種類のたんぱく質があって、赤ちゃんの腸内の鉄を引き寄せて結合します。悪い細菌の成長には鉄が必要なので、こうすることで、悪い細菌の増殖を防いでいるのです。母乳で大きくなっている赤ちゃんに鉄剤を与えると、ラクトフェリンとトランスフェリンが対応しきれなくなり、そこに悪い細菌がどんどん増えてしまいます。(p.389-390)

 これはエビデンスのある話なのでしょうか?

 たしかに、鉄剤を投与した場合便が黒くなることがあります。これは普通の化学反応なのですが、「悪い細菌のせいだ」と考える人もいるかもしれません。

 この本のアマゾンでの評価を見れば、まさにバイブル的な評価です。この本を読んで鉄剤を忌避する人も言うのではと心配してしまいます。この本は母乳の本なのに、ビタミンKの記載もないんですよ。

 当然のことながら、母乳自体を貶める意図はまったくないことを明記しておきます。

 おまけ

 出産は、ドラマチックで喜びに満ちたすばらしい体験です。薬や医療の介入を避け自分の納得のいく主体的なお産をした人は、そのようなお産が赤ちゃんにとっても楽な分娩であったことを実感しています。(p.22)

 妊婦さんたちが、従来通り病院で出産する場合でも、「私のお産はこうしたい」といろいろ要求するようになって来ました。また、家でお産する人、助産院でお産をする人も増えてきています。・・・・この変化は、お産をする人たちが、いろいろと希望を伝えるようになってきたため、病院側も産む側の意志を尊重するようになったからだといえるでしょう。(p.25)

 1994年にカイロでリプロダクティブヘルス・ライツ(reproductive health/rights:性と生殖に関する健康と権利)が採択されました。

http://danjo.city.kashiwa.lg.jp/gakushuu/gender_terms/terms/reproh-r.htm

1994年にカイロで開かれた国際人口開発会議において、
(1)女性自らが妊孕性(にんようせい;妊娠する能力)を調節できること
(2)すべての女性において安全な妊娠と出産が享受できること
(3)すべての新生児が健全な小児期を享受できること
(4)性感染症の恐れなしに性的関係が持てること
の4つを基本とした「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」の概念が提唱されました。性と生殖に関する健康、生命の安全を女性のライフサイクルを通して、権利として捉えようという概念です。

 女性が享受するべき安全な妊娠と出産が、いつの間にか「女性の自己実現・自己表現の場」になったのでしょうか?最近のお産に関する悲しい話題と結びついているように思えてなりません。

 よろしかったら、こちらのブログもご覧ください。
http://d.hatena.ne.jp/jyosanin/ 助産院は安全?

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コメント

 助産院ブログで見て、こちらを見に来ました。
 で、先生の別のエントリを見せて頂きまして、私が以前から持っていた疑問について、ご意見をいただければと思います。
 私の姉は、私の生まれる前に予防接種で死亡しております。私自身も、一度酸素テントの中に入れられまして、卵白アレルギーだろうと言われました。が、小児期こそ予防接種をしなかったものの、医師になってからは、そうもいかずに、B肝、インフルエンザなど摂取。もちろん、異常反応なし。多少硬結ができたぐらいです。
 かっての予防接種禍は、製剤の精製過程の問題があったのではないでしょうか。針の使い回しによる感染などの問題は別にして、40年以上前の事故の発生率は高すぎます。

 タカ派の麻酔科医さん、こんにちは。いつもコメントを拝見しております。
 まずは、お姉さまのことですが、心から哀悼の意を表します。ご両親もさぞかしご無念だったと思います。
 
 確かに精製過程でも問題ありました。インフルエンザワクチンの卵白成分は今はほとんど含まれておらず、よほどの卵白アレルギーがなければ禁忌ではありません。ただ、精製過程の問題だけではないと思います。
https://setagaya-syouni.cocolog-nifty.com/blog/2010/07/post-a581.html

 成分の問題もあります。かつてインフルエンザワクチンは不活化全粒子ワクチンでしたがその後不活化スプリットワクチンになり、副反応は減りました。また、百日咳ワクチンを含む三種混合ワクチンでは、全細胞性(DTwP)から無細胞性(DTaP)に変更になりました。OPVとIPVについてはこれまで書いてきたとおりです。

 他にも管理の問題、問題発生後の対処の不手際など、いろいろな要因があったのかもしれません。

 予防接種の目的からすれば、「取り返しのつかない副反応」についてはなくすべく努力が必要です。この努力はこれからも続きます。 

こんにちは。
この度は記事紹介くださり、有難うございました。

母乳育児が理想なのは当然ですが、過度なものが多いのは事実で、ご紹介の書籍のみならず、熱心な教育が医療の素人、母親間でもされています。
その会話の中には「子供が貧血になる」なんていうのはありませんでした(私の経験上のみであることですが)。
また、完全母乳育児を2歳まですることを理想とする意見も書籍にあったりするので(西原克哉氏著)、お話を伺い、あれを目指す親がいるのも知っているので、心配になります。

自然分娩推奨派の方に多いのが、「リスクはない」という状態を作ってしまっていることです。
病院こそが危険なんだから…というのが入り口にあるようなものですので、「何にも困っていないのに、なんで赤ちゃんに鉄剤を飲ませるの?!」になるでしょうし、「飲ませるのは病院の金儲け主義」ということで、真面目に、深刻に考えることもないだろうとおもわれます。
子供を産もうとする方に、このような無責任な意見よりも前に、何か良いきっかけ(素直に話を聞く心理になれる環境、関係)を得ることしか打開策はないのではないかとさえおもいます。
一度あれらの意見を聞いてしまうと、後から「そんなことないよ、びょ言うんできちんと診てもらいなよ」も全て、「病院の金儲け」みたいにしかおもってくれなくなってしまうんですよね…

はじめまして
AZAと申します。小児科医をしています。
私は発達外来を行うことが多い(Nあがりの発達)ので、特に感じています。
正規産児でも母乳育児をしていると貧血が多いです。やっぱり母親の栄養状態を把握していないと、母乳成分もひんじゃくなのかなあ?と感じています。
母乳は完ぺき!という方がそばにいるので、やりにくいですが、母乳のみで離乳食を食べない子についてはルーチンで採血しています。修正6-7ヶ月でHb<10がほとんどであり、MCV<70もざらにいます。
小児科学会にも母乳の総論が出たりしてますが、単純ではなさそうと感じます。

琴子の母さん、AZAさん、こんにちは。
 「母乳・貧血」で調べてみると、母親の貧血の話はよく出てきますが、赤ちゃんの貧血の話はほとんど出てきません。母乳で育てている限り、赤ちゃんの貧血はありえない・・・そういったイメージを保護者に与えてしまいます。

 「改訂版 だれでもできる母乳育児」をあえて取り上げたのは、著作団体「ラ・レーチェ・リーグ」が医師も参加している団体だからです。「西原ワールド」よりはましなのかもしれないけど、問題があります(しかし、西原克成氏の名前を久しぶりに聞きました)。

 赤ちゃんの貧血に関して、もっと関心があってもいいのではとおもいます。

 一昔前、母乳性黄疸の診断的治療として、数日間母乳をやめてみる、というのがありました。母乳をやめれば黄疸は治るけれど、母乳は止まってしまうのです(搾乳していればいいという意見もありますが)。これでは赤ちゃんの利益になりません。
 赤ちゃんの貧血・鉄欠乏状態も、赤ちゃんの利益という面で考えていくべきだと思います。

はじめまして。
一歳になった娘を持つ者です。
この度、娘が『貧血』では無いかとなんとなくおもい心配になり
ネットで検索していましたところ、こちらにたどり着きました。

娘は完母であまり離乳食が進まず、現在も8割りは母乳では無いかと思うほどです。

心配になりましたきっかけは
・顔が青白いときがある
・目の下にクマのようなものが時々ある
・顔が青白いときは元気がない
・離乳食の摂取量が少ない
と、単純なものなのですが、こちらを拝見させていただき『やはりありえるのでは…』
と思いました。

現在、母乳育児が見直され好さがもてはやされる中、このような実情もありえるのだ
ということをもっと多くの母親や育児にかかわる人が知っておかなくてはならないことだと思いました。

ただ…
いくら育児書やネットがはやっているからといっても、わが子の健康状態や現状は
親である者が把握しておかなければならないとおもい、それこそ『なんとなく気になる…』レベルでもいいからそのことを発信していける社会作りも必要なのではないかと思います。


素人がコメントなど…とも思ったのですが、ひとことお伝えしたく書かせていただきました。
わが子の『貧血』疑いについては、検査のするしないは別として、かかりつけの小児科さんに相談してみます。
ありがとうございました。
これからもいろいろと拝見させていただきます。

完母ママさん、こんにちは。kコメントありがとうございます。
お返事遅れてすみません。日本では、母乳と赤ちゃんの貧血に関しては
驚くほどに無頓着です。赤ちゃんの栄養問題は実は胎児のころから始まっているのですが、まだあまり知られていない事実です。

 なにはともあれ、完母ママさんのお子さんが健やかに育ちますように。

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