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2010年10月27日 (水)

母乳育児の定義

 以前、「完全母乳」とは英語でどう訳すのかを調べたことがあります。結局よくわからなかったです。ちょうど、「小児内科」という雑誌で、今年の10月号に「母乳育児のすべて」というのがあります。そこから参照してみましょう。

 いくつか定義はあるようなのですが、WHOが1991年に定義したのがわかりやすく、実用的です。

Indicators for assessing breastfeeding practices

http://www.who.int/child_adolescent_health/documents/cdd_ser_91_14/en/index.html

Breastfeeding

 大きく分けて、exclusive breastfeeding と predominant breastfeedingに分かれます。「排他的 exclusive」といっても、母乳以外だめということではなく、ビタミン・ミネラル・薬は許容されるのです。

 2005年の報告(米国での母乳育児率)では、exclusive breastfeedingをWHOの定義通りに、少しでも母乳を飲んでいる場合を any breastfeedingと定義しています。

http://pediatrics.aappublications.org/cgi/content/full/115/2/496

TABLE 1. Breastfeeding Rates for Infants in the United States: Any (Exclusive)

 

Actual: 2001

Healthy People 2010 Goals4

Initiation125 6 mo125 1 y132 Initiation 6 mo 1 y

All women 70% (46%) 33% (17%) 18% 75% 50% 25%
Black 53% (27%) 22% (11%) 12%
Hispanic 73% (36%) 33% (16%) 18%
Asian NA NA NA
White 72% (53%) 34% (19%) 18%

NA indicates that the data are not available.

 日本では、「母乳育児」「完全母乳」という定義にいくつか混乱があるのでは、と思います。

 まずは、「完全母乳」ですが、

  1. 母乳以外、口には入れない。
  2. WHOの定義と同じく、母乳の以外にビタミン・ミネラル・薬も含める。

 というのがあります。日本では新生児にルーチンでビタミンKを投与する以上、1.の定義ではないと思います(一部例外あり)。2.の定義でしょう。もちろん、ホメオパシーを投与するのは定義上「完全母乳」ではありません。

 それから、「母乳育児」これもややこしいです。母乳の投与法も区別しなければならないのです。母親が直接授乳させる(いわゆる「直母」)以外にも、哺乳瓶やチューブ(カテーテル)を使って投与することもあります。医学上やむを得ないこともあるのです。

  1. 母乳以外、口には入れない。母親が直接授乳させる。
  2. WHOの定義と同じく、母乳の以外にビタミン・ミネラル・薬も含める。母親が直接授乳させる。
  3. 母乳に加えて母乳以外のもの(糖水、人工乳など)も含める。母親が直接授乳させる。
  4. 母乳以外、口には入れない。授乳以外の方法で投与する。
  5. WHOの定義と同じく、母乳の以外にビタミン・ミネラル・薬も含める。授乳以外の方法で投与する。
  6. 母乳に加えて母乳以外のもの(糖水、人工乳など)も含める。授乳以外の方法で投与する。

 母親が直接与え発育を促すのと、哺乳瓶などを使って母乳を与えるのでも違うのです。それなので、「母乳栄養」を栄養として母乳を与えること(投与法は問わず)としましょう。そのうえで、母親が直接授乳させる方法を「母乳育児」と言いましょう。そのうえで、

  1. 母乳以外、口には入れない。母親が直接授乳させる。
  2. WHOの定義と同じく、母乳の以外にビタミン・ミネラル・薬も含める。母親が直接授乳させる。
  3. 母乳に加えて母乳以外のもの(糖水、人工乳など)も含める。母親が直接授乳させる。

 が、定義の候補になります。上記の2005年の報告からすると、母乳を少しでも飲んでいる場合 any breastfeedingを母乳育児と呼んでいいと思います。つまり、3の定義になります。

 「母乳育児」とは、母親が自身の母乳を直接授乳し児に与え、発育を促していくことと定義される。この場合、少量でも母乳を与えていれば母乳育児を行っていると言えるが、理想的な母乳育児に近付けるためには、母乳の割合をできるだけ多くすることが望ましい。
(清水俊明 :母乳育児とは。小児内科 40: 1570-1573, 2010)

 今月号の小児内科の特集は、とてもよくできています。感心するのと同時に、この「完全母乳」「母乳育児」の定義がどのくらい浸透するのか、と思うことがあります。

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コメント

こんばんは。
先日、書店で「小児内科」10月号を見つけて購入したので、私もいま読み始めていたところです。

定義の見直しは、周産期関係者にとって早急に必要だといつも感じています。
母子手帳を初め、公的な書類の中でも「母乳、混合栄養、人工栄養」の3つに分類する記述方法がほとんどなので悩みます。
退院時の母子手帳には、入院中に預かった時にミルクを足した程度のお母さんであれば、「お母さん、がんばりました」という意味で、母乳に丸をつけます。厳密にいえば、混合なのでしょうけれど。

貧血の件も、お母さんたちに何かの形で退院時までにお話できたらと考えています。
「小児内科」の中にも貧血だけでなく母乳栄養による影響について詳細が出ていましたが、産科入院中はどうしても授乳がうまくいくようにという目先のことに一生懸命すぎて、そこまで情報提供ができていなかったと反省しています。

予防接種を始め、過去の記事もとても勉強になります。ありがとうございます。

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