毎日新聞にみる、クオリティーの落差。
一部でタブロイド氏といわれている毎日新聞ですが、そういわれても仕方のない記事が、多剤耐性アシネトバクター関連で出てきました。
http://mainichi.jp/select/opinion/yoroku/news/20100907k0000m070104000c.html
余録:耐性菌の“俊足”
「もっといそいで、いそいで!」。鏡の国に入り込んだアリスの手を引っ張って走り出したのは赤の女王だ。息が切れて、目が回るまで走ったアリス は、ついにへなへなと座り込んだ。だがあたりを見回すと、もといた場所ではないか▲赤の女王は言った。「いいこと、ここでは同じ場所に止まっているだけで も、せいいっぱい駆けてなくちゃならないんですよ。他へ行こうなんて思ったら、少なくとも2倍の速さで駆けなくちゃだめ」(鏡の国のアリス)▲それで「赤 の女王仮説」と名づけられた。生物は絶えず走り……いや、進化し続けないと絶滅するという進化生物学の仮説のことだ。捕食者が獲物を捕らえる能力と、獲物 がそれを逃れる能力が、まるで軍拡競争のように進化し続けるのはその分かりやすい例という▲では細菌の世界でも赤の女王が「もっといそいで!」とせっつい ているのだろうか。抗生物質の効かない多剤耐性菌による大規模な院内感染が帝京大病院で明るみに出たのに驚いたら、今度は国際的に監視が呼びかけられてい た新タイプの耐性菌が国内でも見つかった▲帝京大病院の場合は対策が後手に回り46人の院内感染者を出しながら、国などへの報告を怠った。そのうち9人は 感染と死亡の因果関係が否定できないともいう。高度医療を掲げる大学病院としては何とも情けない限りだ▲抗生物質開発と細菌の耐性獲得とのこの果てしない 競走、細菌の俊足ゆえにどうも人類は分が悪い。感染症との戦いで新たな知恵と情報を求めながら走り続ける人類なのに、医療機関が足を引っ張るようでは赤の 女王の高笑いが聞こえてこよう。
死者に対する思いはまったく感じ取ることはできない記事です。これはキジじゃなくてハジなのでしょう。他山の石としたいです。
その二日後、まったく違った記事が出てきました。上の記事でよほど批判を受けたのか、別の記者が書いたのか。あるいはその両方なのか。よくかけていると思います。この落差は同じ新聞なのかと思うほどです。
http://mainichi.jp/select/jiken/news/20100909ddm003040090000c.html
クローズアップ2010:多剤耐性菌アシネトバクター 強い「生命力」で拡大
帝京大病院(東京都板橋区)を皮切りに、次々と明らかになった多剤耐性菌アシネトバクターの院内感染。感染拡大の原因として、病院側の認識の甘さ や報告の遅れなどが問題視されているが、専門家は対策が難しい同菌の特性も一因に挙げ、今後も感染が相次いで発覚する可能性を指摘する。これまで打ち出さ れてきた国の院内感染対策も、十分とは言い難いのが実情だ。【佐々木洋、福永方人】
◇乾燥に耐え生存 帝京大では2度沈静傾向に
「アシネトバクターは高度耐性菌の中でも『生命力』が強く、対策は非常に難しい」。自治医科大病院の森沢雄司・感染制御部長は指摘する。感染が収まったように見えても、病院内のさまざまな場所で菌が生き延び、再び感染が拡大する恐れがあるという。
帝京大病院では今年2月、4人の感染者が出たが、3月には1人に減少。同病院感染制御部の対応は、院内各科に通知を出すなどして注意を呼びかける にとどまった。しかし、4月から5月初めにかけ、一気に約10人が感染し、同病院は初めて「院内感染」と認識。全感染者を個室で管理し、病棟を一時閉鎖す るなど、拡大防止に乗り出した。
その後、6月には6人の感染者が出たものの、7月は1人で同月末時点での保菌者は計3人に減り、沈静化したように見えた。同病院は8月4日に厚生 労働省と東京都の定期検査を受けたが、院内感染については報告しなかった。都の担当者は「定期検査の時点では院内感染は終息傾向にあると判断し、報告しな かったのだろう」と見る。
しかし、8月に同病院が精度の高い手法で全病棟を検査したところ、新たに7人の感染が確認された。結局、感染者は計53人に上り、いまだに感染は終息していない。
一方、3人の感染者が出た都健康長寿医療センター。このうち76歳の男性は今年2月、帝京大病院から転院した。転院約2週間前の検査ではアシネトバクターは陰性だったが、転院当日の同センターでの検査では陽性となった。
帝京大病院は「転院までの2週間で感染した可能性はゼロではない」と話す。
こうした状況について森沢部長は「例えば緑膿(りょくのう)菌は乾燥に弱く、水回りの対策で済む。しかし、アシネトバクターは乾燥に強く、床や カーテン、パソコンのキーボードなど通常の環境でも数週間以上生存する。病室などを1回調査しただけで、菌の有無を判断するのは難しい」と指摘する。欧米 の病院では、医療スタッフが使うPHSを介して集団感染が発生したケースもあるという。
次々と明らかになる院内感染は今後も拡大するのか。
日本感染症学会理事の舘田一博・東邦大准教授(微生物・感染症学講座)は「院内感染をゼロに抑えるのは不可能。アシネトバクターは既に国内でも広 がっていると考えられ、検査を強化すれば新たな院内感染が発覚する可能性がある。院内の監視体制を強め、菌が検出されたら速やかに保健所などに報告し、消 毒で拡大を防ぐなど、本来の感染対策を改めて徹底すべきだ」と指摘する。
◇国の対策、後手に回る
国の院内感染対策は、セラチア菌や多剤耐性緑膿菌などによる集団感染が問題化するたび、法律・省令の改正や、自治体への通知などによる対応を繰り 返してきた。後手に回ってきた感は否めず、感染症対策のスタッフの少なさの解消など抜本的な対策は先送りにされてきたのが実情だ。
国は04年1月、大学病院などの特定機能病院について、省令改正で専門知識を持つ専任の担当者を置くことを義務化。07年4月施行の改正医療法で は、診療所などを含めたすべての医療機関に院内感染マニュアルの策定を義務づけるなど、医療機関の安全対策に院内感染対策を初めて明確に位置づけた。
アシネトバクターを巡っては、福岡大病院の院内感染を受け、09年1月、厚労省が対策を求める通知を都道府県に出した。しかし、帝京大病院では、 感染制御部の医師らが通知を知りながら素早い対策を取らずに被害を拡大させ、保健所への報告も遅れた。このため厚労省は今月6日、改めて対策の徹底を求め る通知を出した。
帝京大病院の対応について厚労省の担当者は「専任職員といっても、どの程度機能していたかは今後の調査次第。医療機関ごとに相当意識の差がある可能性もある。行政への届け出の遅れは、感染症法の報告義務対象になっていなかったからではないか」とみる。
同法では、バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌など5種類の耐性菌について発生時の報告を義務づけているが、アシネトバクターは対象外だった。この ため長妻昭厚労相は独協医大病院で国内初確認された「NDM1」も含め、届け出対象に含めるか検討を指示した。新しい耐性菌の広がりを把握するため、全国 的な調査に乗り出す方針も固めた。
感染症専門医の少なさなど、欧米に比べ遅れが指摘されていた日本の院内感染対策。長妻厚労相は7日の会見で「専門家の意見も聞きながら実態把握を進め、これを機に対策を徹底したい」と語った。
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