SIDSの同時危険
http://pediatrics.aappublications.org/cgi/content/abstract/125/3/447
Concurrent Risks in Sudden Infant Death Syndrome
SIDSの同時危険
いつもながらの下手訳です。
要約
背景:安全な睡眠に関する教育が向上しているにもかかわらず、乳児たちはまだSIDSの多発しているリスクにさらされている。
目的:SIDSのリスクの頻度、共起リスクの傾向、修正可能なリスクと修正不可能なリスク間の関連およびリスクの無いケースの希少性などの関心を高める。
設計と方法:1996-2000年にニュージャージー州で起こった244ものSIDS例で、修正可能なリスク(父親母親の喫煙、仰向けではない姿勢で寝るか発見時にうつ伏せだった、ベッドの共有、または状況リスク(枕の使用など))と修正不可能なリスク(上気道感染や37週未満の在胎週数)の頻度や共起について評価した。
結果:仰向けではない姿勢で寝た場合は70.4%で起こっていた。発見時うつ伏せだった乳児は13例で、これらの症例を含めると76.1%に上昇する。その87%では他のリスクも含まれていた。母親の喫煙は42.6%であり、そのなかで98%は他のリスクを伴っていた。96%で少なくとも一つのリスクがあり、78%で2-7つのリスクがあった。完全なデータを元にすれば、リスクの無い症例はわずか2症例(0.8%)だった。修正できないリスクを除外すると、5.3%がこの基準に当てはまった。
結果:リスクの無いまたはリスクが一つだけのSIDSは珍しく、多くはいくつかのリスクを持っている。保護者の教育は、包括的に行い、修正できないリスクへの補償的戦略に取り組むべきである。
本文
結果(表参照)
表 2 SIDS症例のリスク因子
喫煙 | (%) | |
母親の喫煙 | 42.6 | |
父親の喫煙 | 50.0 | |
親(一人か両方)の喫煙 | 60.3 | |
上気道炎 | 44.0 | |
状況リスク | 31.5 | |
在胎週数37週未満 | 27.2 | |
ベッドの添い寝 | 38.9 | |
状況リスク:キルト・毛布・枕・ソファーの使用および他の子どもたちの存在 | ||
表 3 リスクの共起(注:50%以上を赤くしました)
追加リスク | 追加リスクがある場合のリスクの割合(%) | ||||||
非仰向け | 母親喫煙 | 上気道炎 | 状況 | 父親喫煙 | 在胎週数<37W | 添い寝 | |
非仰向け | 76.4 | 72.3 | 83.6 | 74.7 | 69.5 | 80.0 | |
母親喫煙 | 44.2 | 40.2 | 53.6 | 69.4 | 54.6 | 53.1 | |
上気道炎 | 40.8 | 39.3 | 28.8 | 41.0 | 40.4 | 45.0 | |
状況 | 36.1 | 40.2 | 20.9 | 37.1 | 28.3 | 43.0 | |
父親喫煙 | 50.4 | 85.5 | 47.2 | 58.9 | 59.1 | 54.6 | |
在胎週数<37W | 24.8 | 33.3 | 25.8 | 24.6 | 30.2 | 30.6 | |
添い寝 | 39.8 | 46.7 | 40.0 | 53.3 | 40.0 | 42.6 |
議論
概観
1. リスクの無いSIDSは、修正可能なリスクに限定しても、まれであった
2. 同時多発リスクが、大部分のケースであると分かった
3. 修正不可能なリスクは多くの場合修正可能なリスクを伴っていた
リスク減少教育
修正可能リスクと修正不可能(在胎週数37週未満や上気道感染)なリスクの組み合わせは、介護人教育に示差を与える。
NICUでは治療としてうつ伏せ寝をしているが退院後は仰向け寝に変えることを、家族に理解し受け入れてもらうように医療関係者が援助することを、APPのガイドラインではアドバイスしている。しかし、退院指導ではこの推奨を堅実に反映していないかもしれない。退院後も、外来診療のたびに、医師は他のリスク減少ガイダンスも使いながら、仰向けにすることを手助けし続ける必要がある。
もう一つの修正不可能のリスクである上気道感染は症例のの44%に見られた。うつ伏せ寝と、最近の病気や感染との組み合わせは、個々のリスク因子で見られるレベルよりもSIDSのリスクを増大させる。我々の上気道炎症例乳児で、約四分の三は仰向け寝ではない状態に置かれていた。上気道炎を伴う症例では、44%の母親と47%の父親が喫煙をしていた。Winickoffらは、小児科医は煙暴露(smoke exprosure)について十分な質問やカウンセリングをしていないし、禁煙診療に行くように家族を援助しないと指摘した。さらに言えば、乳児のいる黒人家庭では家族内喫煙が白人やヒスパニックと比べて非常に多く、これらのグループ間でSIDS発症率に偏りがあるので、医療関係者は禁煙外来に行くように指導することでこの偏りを減らす必要がある。
最後に、母乳は感染減少と関連がある。しかし、2005年に改定されたSIDSリスク減少ガイドラインでは、母乳が感染減少戦略となるという十分なエビデンスは無いと言及した。最近では、Vennemannらは、母乳はSIDSのリスクを50%まで減少したと指摘し、SIDSリスク減少ガイドラインに母乳についてのアドバイスを加えるよう推奨した。
研究の限界について
死後すぐに集めたデータのため、時間に関連した思い出しバイアス(過去の事例を思い出すときに生じるバイアス)を我々は関心を寄せていなかった。この研究デザインでは生存中の乳児との比較は含まれていないため、これらのグループ間での相対的な思い出しバイアスの問題は無い。
しかし、我々はスティグマにより過少報告されるリスクの可能性を考えなければならない。うつ伏せの状態で見つかった非常に若い乳児が、スティグマのため仰向けだったと報告される懸念について、我々は排除することはできない。しかしながら、潜在的なバイアスやデータ紛失にもかかわらず、ほとんどすべての症例でリスクは報告された。
あお向け寝から発見時うつ伏せになっていた乳児の平均死亡年齢は、あお向け寝の乳児が寝返りを打てるようになる年齢(4-5ヶ月)よりも若かった。そのメカニズムは不明である。
他の限界としては、我々の研究は記述的研究であり、ケースコントロール研究ではない。最後に、人口統計学的にニュージャージー州と相同ではないコミュニティーにこの研究結果を一般化することの危険性を、我々は呼びかける。
結果
SIDS症例の調査で、多発リスク因子が明らかになった。多くの症例では一つ以上のリスクがあった。修正できないリスクは、修正できるリスクを伴い、さらに上昇したリスクとなって発生した。リスクの無い症例は珍しかった。これらの知見で、両親や他の医療関係者に広範囲なリスク減少の教育を提供することの重要性がわかる。APPのガイドライン・リスク減少のキャンペーン・死亡状況の調査技術、それに診断基準の向上で、SIDSのリスク様式の傾向を評価する更なる研究が必要である。単一のリスクだけではなく組み合わせのリスクの相対危険度を評価するため、ケースコントロール研究もまた必要である。
コメント
NICUでの退院指導で、案外うつ伏せ寝の指導をあまりしてないのかもしれません。禁煙教育も大切ですね。肝に銘じなくてはいけません。
SIDSの本当の日本語訳は乳児突然死症候群ですが、厚生労働省のガイドラインでは乳幼児突然死症候群となっています。定義上年齢は一才未満ですが、厚生労働省のガイドラインでは一才以上でも可能としています。日本と海外でのSIDSの定義は異なるため、海外との比較では注意が必要です。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B9%B3%E5%B9%BC%E5%85%90%E7%AA%81%E7%84%B6%E6%AD%BB%E7%97%87%E5%80%99%E7%BE%A4
bed-sharingを「添い寝」と訳すべきか、悩みました。意図的な添い寝はco-sleepingであり、bed-sharingは「ベッドの共有」つまり(居眠りなどで)結果として共有したということも含まれます。
http://www.jalc-net.jp/dl/UKUnicef-bedsharing(hospital).pdf
stigmaをどう表現しようかも悩みました。SIDSでお子さんを失ったご両親の悲しみ・怒りは、そう簡単に言い表せるものではありません。考えたのですが、あえてスティグマと表現しました。
http://www.sids.gr.jp/
寝返りを打てるようになる年齢以下なのに、あお向け寝で発見時はうつ伏せだった症例があったのは驚きました。著者らは原因は不明としていますが、事故・事件にせよ外因的な力があったのではないかとおもいます(そうするとSIDSの定義から外れます)。
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