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2011年1月15日 (土)

同時接種と補償問題

昔、同時接種をしなかった理由の一つに、補償の問題がありました。

(追加):同時接種については当ブログ(変わったレストラン(同時接種の不思議))もご覧ください。

 不具合が起こった時にどちららのワクチンが原因か分からないから、補償が効かない。ましてや、任意と定期のワクチンの同時接種なんて、とんでもない話だ。

 というものです。

 まず、日本で行われているワクチンは大きく分けて三つあります。

  1. 定期予防接種
  2. 任意予防接種
  3. 行政措置予防接種

 定期予防接種、任意予防接種についてはよくご存じのことだと思います。行政措置予防接種とは、地方自治体が行う予防接種のことです。

http://www.koizumi-shigeta.or.jp/yobou2-01.html

(3) 行政措置予防接種(高崎市)
 高崎市の行政措置予防接種は、国の制度では定期接種として接種できないワクチンを、高崎市民が指定された医療機関で接種した場合に適用されるのもです。
 行政措置予防接種に指定されているワクチンの種類
 1)定期接種の予防接種を定められた期間内に受けられなかった方のためのワクチン。例えば、1歳を過ぎて麻しん・風しん混合ワクチンを自費で接種するなどの場合です。
 2)更に、高崎市民が安心して任意接種の予防接種を受けられように、インフルエンザワクチン、おたふくかぜワクチン、水痘(みずぼうそう)ワクチン、A 型肝炎ワクチン、B型肝炎ワクチン、肺炎球菌ワクチンNP(成人用)、ヒブワクチン(インフルエンザ桿菌b型ワクチン)、小児用7価肺炎球菌ワクチン、子 宮頸がんワクチンにも適用されています。
 注)行政措置予防接種は接種料金を公費負担するための制度ではありません。行政措置予防接種は、高崎市民が予防接種による健康被害(強い副作用)を被った場合、接種したワクチンが行政措置予防接種に指定されている場合に高崎市が健康被害(強い副作用)の救済を行う制度です。

 うらやましいことに、高崎市ではすべての任意接種が行政措置予防接種です。多くの自治体では、行政措置予防接種はインフルエンザワクチンのみです(公費負担に伴ってヒブワクチン、小児肺炎球菌ワクチン、HPVワクチンも組み込まれる予定)。

 どうしてうらやましいかというと、任意接種と定期接種・行政措置予防接種との補償がかなり違うからです。

 定期予防接種の補償というものは予防接種健康被害救済制度によって定められています。これによると、第一類(MR/三種混合/BCG/ポリオ/日本脳炎)では

http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/07-3/kousei-data/pdfNFhtml/hp07010302.html

                                                                
予防接種健康被害救済制度の給付の種類と額
一類疾病
種類対象者給付の内容及び支給額
医療費予防接種を受けたことによる
    疾病について医療を受ける者
健康保険の例により算定した額のうち自己負
    担相当額
医療手当医療費に同じ入院   1ヶ月のうち8日以上(月額) 35,800円
    入院 1ヶ月のうち8日未満(月額) 33,800円
    通院 1ヶ月のうち3日以上(月額) 35,800円
    通院 1ヶ月のうち3日未満(月額) 33,800円
    同一月入通院        (月額) 35,800円
障害児
    養育年金
予防接種により障害の状態と
    なり、一定の障害を有する18
    歳未満の者を養育する者
   1級           (年額) 1,531,200円
    (介護加算額)     (年額) (836,600円)
   
       2級         (年額) 1,225,200円
    (介護加算額)     (年額) (557,800円)
障害年金予防接種により障害の状態と
    なり、一定の障害を有する18
    歳以上の者
   1級           (年額) 4,897,200円
    (介護加算額)     (年額) (836,600円)
   
       2級         (年額) 3,915,600円
    (介護加算額)     (年額) (557,800円)
   
       3級         (年額) 2,937,600円
死亡一時金予防接種による疾病により死
    亡した者の遺族
42,800,000円
葬祭料予防接種による疾病により死
    亡した者の葬祭を行う者
199,000円

です、ここでは死亡一時金4280万を覚えてください。

 一方で任意接種の場合は、処方薬と同じ医薬品副作用被害救済制度になります。金額は、

http://www.pmda.go.jp/kenkouhigai/help/benefit.html

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                   
給付の種類別給付額
給付の種類 区分給付額
医療費 健康保険等による給付の額を除いた自己負担分
医療手当(1)通院の場合 1ヶ月のうち3日以上 月額 35,800円
1ヶ月のうち3日未満月額 33,800円
(2)入院の場合1ヶ月のうち8日以上月額 35,800円
1ヶ月のうち8日未満月額 33,800円
(3)入院と通院がある場合月額 35,800円
障害年金(1)1級の場合年額 2,720,400円(月額 226,700円)
(2)2級の場合年額 2,175,600円(月額 181,300円)
障害児養育年金(1)1級の場合年額 850,800円 (月額 70,900円)
(2)2級の場合年額 680,400円  (月額 56,700円)
遺族年金10年間を限度として
        (ただし、死亡した本人が障害年金を受けたことがある場合、その期間が7年に満たないときは10年からその期間を控除した期間、その期間が7年以上のときは3年を限度として支給されます。)
年額 2,378,400円 (月額 198,200円)
遺族一時金 7,135,200円
葬祭料 201,000円

 

です。死亡一時金が713万5200円です。つまり、同じ死亡一時金でも

 定期予防接種:4280万
 任意予防接種:713万5200円

です。単純な比較をすることはできませんが、実に6倍弱もの開きがあります(任意と定期の違いをなくしたほうがいいという理由の一つです)。

 もうひとつの行政措置予防接種になると、定期予防接種に準じた補償を受けることができます。これは自治体の加入している保険で賄われています。保険の種類は、自治体によって「全国市長会予防接種事故賠償補償保険」「全国町村会総合賠償補償保険」「特別区自治体総合賠償責任保険」となっているようです。もっと細かい事情もあるのですが、省きます。

 話を同時接種に戻します。まずは、任意予防接種と同時接種した定期予防接種は、定期とみなされるか(すごい話だ)ですが、

http://www3.pref.okinawa.jp/site/contents/attach/17178/doujisesshu2010.9.15.pdf

任意接種と同時に接種した場合の定期予防接種の取扱いについて
平成20年6月5日於全国衛生部長会議
(質問)

  •  医師が特に必要と認めて定期接種ワクチンと同時接種した場合、定期接種ワクチンは適切に実施された定期の予防接種と認められるかどうか。

(回答)

  • 異なる種類の定期の予防接種の同時接種については、予防接種実施要領で医師が必要と認めた場合に限り認めている。
  • 定期と任意の予防接種の同時接種については実施要領に特段規定がない。
  • 安全な予防接種を維持し、被接種者の健康を守るためには、実施する医師の医学的に適切な判断に委ねられる。
  • 同時に接種された定期分については、実施要領の通り十分な予診、決められたワクチン接種量の遵守等適切に実施されていることが求められている。

 簡単にいえば、「同時に接種された定期接種については、実施要領通り適切に実施されている限り、定期接種である」。

です。ただし、「文書化されない通知や会議での発言は法によらないため、担当が変わると変更される可能性がある。」ということです。

 同時接種の補償については以前お話しした通りです。

同時接種で不具合が生じた場合、補償は大丈夫なのか

 「犯人探し」が先行するため補償を受けられない、ということはありません。日本医事新報からの抜粋です。
http://www.jmedj.co.jp/magadetail.jsp?goods_id=1646

日本医事新報(4485:83-84)
定 期接種における健康被害の救済は、「疑わしきは救済する」方向で進められている。定期接種と任意接種の同時接種により、どちらが原因かの診断がつかない健 康被害が生じた場合は、救済時の補償が手厚い定期接種(勧奨接種)による副反応と診断して、救済を申請するのが現実的である。なお、同時に任意接種健康被 害と定期接種の健康被害は申請できない。

 つまり、任意接種は定期接種または行政措置予防接種と同時接種したほうが、何か問題あった場合より厚い補償が受けられるということです(あるいは高崎市のように、任意接種をすべて行政措置予防接種にする)。

 ここで課題があります。

 同時接種は今のところ、DPT、ヒブ、小児肺炎球菌の三つ(あるいは二つ)で行われていることが多いと思われます。法律上、医学上も他のワクチンの同時接種はできますし、定期接種を加えれば、補償もより厚くなります。具体的な事例の一つは、MRワクチン+おたふくワクチン+水痘ワクチンです。働く女性が多くなり託児所通いが多くなってきた今、この3つの同時接種を望んでいる人は決して少なくはないと思いますが、ほとんど進みません。今でもMR→(28日以上)→おたふく→(28日以上)→水痘と、2カ月以上かけて接種することがあります。それまでに水痘にかかったらどうするのでしょう?

 もうひとつは不活化ポリオワクチンの問題です。先日IPVは他の定期接種や行政措置予防接種との同時接種でも補償的に問題はないと、ツイッターでついつぶやいてしまったのです。上の流れで見れば素直に問題ないと思ったのですが、はたして本当に大丈夫か分かりません。何しろ、私的な輸入ワクチンについて日本ではほとんど行われてなかったのですから。

 日本の多くのワクチンもIPVも安全性が確認されています。IPVの輸入会社でも補償は行っており、補償請求の事例はまだないと聞きました。それだけ安全ということなのですが、確実なことは言えません。

 私はIPVと他のワクチンの同時接種はしないほうがいいといいたのではありません。安心して同時接種できる補償を確認したいのです。

 よろしくお願いします。

(追記)

 今普通に同時接種している施設は多数ありますし、それで大きな問題になったということはありません。私もうつ立場になったら、患者さんに説明の上接種しようと思います。

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